研究分野・研究標的疾患

研究分野:生化学、分子生物学、分子栄養学、動物生理学、薬理学、薬物動態学、機器分析学
研究標的疾患:加齢性疾患(アルツハイマー病や骨粗しょう症、がんやミトコンドリア病など)

研究室で取り組んでいる主な研究課題

 私の研究室はビタミンKを含む脂溶性ビタミンやGTPなどの核酸を中心とした栄養素を基にした創薬・機能性食品開発を目指しています。我々の研究のゴールは、食事やサプリとして摂取できる栄養素を用いて、健康な状態から病気の状態の間の未病の期間を長くすることです。また、活性の高い栄養をを基に誘導体化を行い、病気の治療も目指します。
 国内外の大学や研究所との共同研究を行っています。外部研究機関での研究も可能です。

 私たちの研究室では、以下の3つの研究課題を中心に取り組んでいます。

  • 脂溶性ビタミンを中心とした分子栄養学研究・創薬科学研究
  • 核酸GTPを中心とした分子栄養学研究・創薬科学研究
  • 新規白金錯体を用いた創薬科学研究

研究内容(一般向け)

 生化学研究室では、トマトやホウレンソウなどの緑黄色野菜や肉や卵、納豆やキムチなどの発酵食品に多く含まれるビタミンKという栄養素の研究をしています。

 ビタミンKは皆さんが赤ちゃんとしてこの世に生まれて、母乳よりも先に口にする薬でもあります。ビタミンKの”K”は血を固めるというドイツ語が由来になっています。赤ちゃんは生まれてすぐは、非常に出血しやすく脳や腸に出血すると亡くなってしまいます(新生児メレナ)。ビタミンKは、このような出血を防ぐために使用されています。血液を固める役割以外に、骨を固くする役割を持っているので、高齢者になると発病する骨粗しょう症という、骨がもろくなる病気を防ぐための薬としても使用されています。我々の研究室では、最近脳におけるビタミンKの役割に興味があり、特に加齢に応じて発症するアルツハイマー病などの神経疾患にビタミンKが応用できる可能性を考え、ヒト細胞やマウスやラットを用いた動物実験、ヒト試験を行うことで、ビタミンKをアルツハイマー病の予防や治療を目指しています。また、生化学や分子生物学といった手法を用いて、ビタミンKに関連する可能性のある疾患の探索も行っています。

 ビタミンKは、これまでに測定が難しくなかなか研究が進んできませんでした。我々の研究室では、身体の中のビタミンKがどのように形を変えて、色々な組織に移行するかそのメカニズム(代謝メカニズム)を検討しています。ビタミンKは酵素と呼ばれるたんぱく質と反応することで、形を変えます。このようなビタミンKの代謝メカニズムを明らかに出来れば、栄養素としてだけじゃなく、薬としての体内動態を理解することに繋がります。この研究の過程で、ビタミンKを簡便に測定する新しい分析方法も樹立しています。

 生化学研究室はビタミンKフリーク(ビタミンKのファン)を増やしていくことも小さな目標としています!

 ビタミンK以外では、GTPの研究も行っています。GTPは、我々が生きていく上で最も重要なエネルギー源であるATPと同じ構造を持っている核酸と呼ばれます。核酸は、私たちの生命情報の塊である遺伝子を構成する上で重要なもの(DNAだとA・T・G・C、RNAだとA・U・G・C)です。このように重要な核酸成分の1つのGTPは、興味深いことにがんになると沢山GTPが身体の中に作られます。我々の研究室では、身体の中のGTP量に応じてがんになる可能性を考えています。これまでに、共同研究者のシンシナティ大学の佐々木先生らがGTPを認識するセンサー酵素を見つけています。生化学研究室では、センサー酵素の機能を明らかにすることで、がんの予防や新しいガン治療の標的を探しています。

 白金製剤(シスプラチンやオキサリプラチンなど)というものは古来より、非常に強力な抗がん剤でした。しかし、がん細胞以外の健康な細胞も傷つけてしまうため、がん患者さんは吐き気や脱毛といった多くの副作用を伴いました。そこで、共同研究者の鈴鹿医療科学大学薬学部の米田先生が合成された新しい白金製剤を用いて、副作用の少ない新しい白金静がん剤の開発を目指しています。

 このように、健康な人は栄養素の機能や服用方法を検討することで健康な期間を延ばせることを目指しています。
病気になった場合は、栄養素だけでなく化学構造を変えた薬を開発することで、病気の治療を目指していきたいと思っています。
我々の研究室では、病気にならない期間:未病の延伸を目指すことで、超高齢社会の本邦に貢献したいと思います。

研究内容(研究者向け)
① 脂溶性ビタミンを中心とした分子栄養学研究・創薬科学研究

私たちは以下の内容を中心とした研究を行っています。

  • ビタミンKの生体内代謝機構の解明
  • ビタミンKが関連するアルツハイマー病などの加齢性脳変性疾患の発症メカニズムの解明
  • ビタミンK関連疾患に対する治療・予防方法の検討
  • 脂溶性ビタミンの新規生理機能の探索および機能性食品への応用
  • 脂溶性ビタミン誘導体の創製による疾患治療薬の開発
  1. はじめに

脂溶性ビタミンの1つである、ビタミンKは1936年にデンマーク人のDamによって発見されました1)。Damはニワトリの雛を無脂肪食で飼育していたところ、皮下出血や貧血が認められ採血した血液が凝固しにくいことを発見しました。その後、様々な研究から抗出血性物質が脂溶性であり、肝臓や種々の植物体抽出物中に存在することを見い出しました。

Damは、この未知の栄養成分を血液凝固(ドイツ語のKoagulation)にちなんでビタミンKと命名しました。また、ThayerらはビタミンK1およびビタミンK2をそれぞれアルファルファと腐敗した魚肉から単離し構造を決定しました2)。ビタミンKは2-methyl-1,4-naphthoquinoneを基本骨格として、3位の側鎖構造の違いにより同族体に分類されます3)。天然には、植物由来のビタミンK1(phylloquinone:PK)と腸内細菌や発酵食品に由来するビタミンK2(menaquinone類:MK-n)が存在します2)。PKは3位にphythyl側鎖を有しておりますが、MK-nは、側鎖のisoprenyl基の数(n)に応じてn=1~14の同族体が存在します4)。MK-nのうち、n=4であるMK-4はPKと同じ側鎖長を有し、ビタミンK同族体で最も多岐に渡る生理活性を有することが報告されています5)。現在わが国では、PKは抗出血薬として、MK-4は骨粗鬆症治療薬として臨床応用されています。この他、合成品として2-methyl-1,4-naphthoquinone骨格のみの構造体であるビタミンK3(menadione:MD)が存在します(図1)。

図1:私たちの身の回りに存在するビタミンKおよびその構造式

2. ビタミンKの生理作用

食事から摂取されるビタミンKは、脂質の吸収、輸送系を介して標的組織へ移行すると考えられています。標的組織の細胞に移行したビタミンKは、細胞内の小胞体でビタミンKサイクルと呼ばれる酸化還元サイクルにより代謝されると同時に、γ-glutamyl carboxylase(GGCX)の補因子として働き、ビタミンK依存性タンパク質の活性化を担います6)。ビタミンK依存性タンパク質としては、血液凝固第II、VII、IX、X因子やプロテインC、Sおよび骨に分布するosteocalcin(OC)やmatrix Gla protein(MGP)などがあり、これらのタンパク質はGGCXにより、glutamic acid(Glu)残基がγ-glutamyl carboxyl化(Gla化)され、γ-carboxyglutamic acid(Gla)を有する活性型となり、血液凝固や骨形成に働きます(図2)。

図2:ビタミンKの酸化還元反応を担うビタミンKサイクル

ビタミンKサイクルにおけるvitamin K-dependent protein  (VKDP)のGla化作用に加え、TabbらはMK-4が核内受容体steroid and xenobiotic receptor(SXR)のリガンドとして遺伝子の発現を制御することを明らかにしました7)。SXRは、リファンピシンやクロトリマゾールなどをはじめ、様々な薬剤をリガンドとし8-10)、retinoid X receptor(RXR)とヘテロ二量体を形成して、標的遺伝子上のSXR responsive element(SXRE)に結合することにより、遺伝子の転写を調節しています11, 12)。MK-4はSXRを介して、薬物代謝酵素であるシトクロームP450(CYP)3A4、骨基質タンパク質であるosteocalcinやMGPの他、コラーゲンの蓄積に関与するmatrillin 2(MATN2)やtsukushi(TSK)の発現を誘導することが報告されていいます7, 13)。このSXRを介した作用は、ビタミンKのうちMK-4に特異的に認められるもので、PKやMK-7はSXRを介した作用を示しません(図3)。

図3:MK-4の核内受容体SXRを介した転写調節作用

さらに、IchikawaらによってビタミンKサイクルやSXRを介した作用以外に、MK-4 がprotein kinase A(PKA)のリン酸化作用を促進することで、細胞分化増殖因子であるgrowth differentiation factor 15(GDF15)およびカルシウム調節因子であるstanniocalcin 2(STC2)を介して骨形成を促進します7, 13, 14)。このようにMK-4は、GGCX活性、SXRを介した転写調節、PKAの活性化など様々な作用によってビタミンKの様々な生理作用を発揮します。

3. ビタミンKを中心とした今後の研究

現在作成中です。

② 核酸GTPを中心とした分子栄養学研究・創薬科学研究

以下のリンクの内容をご確認ください。

https://www.gtp-project.net/

③ 新規白金錯体を用いた創薬科学研究

現在、作成中です。

研究機器:Facilities

生化学研究室では分子栄養学に関する研究を行っていますので、生化学実験や分子生物学実験の装置や共同機器として質量分析器やフローサイトメーター等を所有しています。近隣の研究者の方で、使用を検討したい場合は、気軽にご連絡ください。

① 遺伝子実験用機器
② タンパク質実験用機器・吸光度計
③ 蛍光顕微鏡
④ 共通機器

大学で運用している機器ですが、生化学研究室が維持管理をしております。